84.巨人とおっさん―2
「おお、グルゥよ。久しぶりだな」
ヌエツト城にまで戻ったグルゥは、早速デルガドスの元にまで会いに来ていた。
普段であれば玉座の間に鎮座しているデルガドスだが、今は城内の病室にて安静にしている。
ベッドからはみ出しそうな大きな体が、いつになく小さく見えて、グルゥは少し戸惑っていた。
「何があったかは、聞いているのか?」
「……はい。ケントラムにてイルスウォードの一味に襲われたと……そう聞いております」
怒り狂っているんじゃないかと思っていたグルゥだが、旧友を迎えるようなデルガドスの態度に、少しペースを崩される。
もしも、そのイルスウォードの下から来たと聞けばどんな表情をするか――考えただけでも恐ろしかった。
「ははっ。それでは少し言葉が足りんな。……国を裏切り、国賊へと成り下がったバカ息子に、まんまと嵌められたのだ。いずれお前にも、国賊を討伐する任務をお願いすることになるだろう」
ヴァングリフの話になった途端、デルガドスの顔色が一変する。
やはりというか、案の定というか――デルガドスがヴァングリフを許すことはないらしい。
肩に乗せているミルププが、服の下でもぞもぞと動くのが分かった。
まだ早い、とグルゥは右肩を手で押さえる。
「傷の具合は……まだ、良くならないのですか?」
「ああ。どういうわけだが、霊薬を飲んでも傷の塞がりが悪くてな。今まで、こんなことはなかったのだが……流石の儂も、年には勝てないということかの」
病衣の下からはだけた包帯を、デルガドスは大きな手で擦った。
今までのデルガドスなら、絶対に口にしなかったような言葉だ。
(やはり、ヴァングリフにやられたことを、多少なりとも気にしているのだろう)
そんな状態のデルガドスに、話を切り出すのは臣下として辛い気持ちもあったが――意を決して、グルゥは本題を口にした。




