84.巨人とおっさん―1
ヌエツトの領土の北方に聳え立つ、神峰“エルグドス”。
かつてヌエツトの大地の全てを燃やし尽くしたという活火山には、熱を好む巨人が棲みついたと言われている。
そしてその巨人を祀ることにより、エルグドスの噴火は鎮められているのだと、『サタン』らはそう信じ、信仰して生きてきた。
その巨人は火口付近の洞穴に棲むとされ、並みの『サタン』では、その熱に負け火口に近付くことすら出来ないと言う。
――その洞穴に、グルゥはついに辿り着いたのだ。
だが、
「ぐ…………うぅ…………」
朦朧とする意識の中、赤茶けた地面の上に這いつくばったグルゥは、己の死を覚悟していた。
粉々に砕けたあばら骨。
その無数の破片が臓器に突き刺さり、まともに呼吸すら出来ないでいる。
手足の感覚も既にない。
体はもう動かなくなっているというのに――その“視線”だけが、遥か頭上から降り注いでいるのは、はっきりと認識出来ていた。
(私は……死ぬのか……? やはり、巨人を倒すことなど――)
何故、このような状況に陥ってしまったのか。
その発端は、グルゥがヌエツト城に辿り着いた、一日前に遡る――




