83.願いとおっさん―7
「ユグドラシズがこの地にかけた呪い。それが結晶病の正体なのだ。我々は、魔力を維持し続けるためには、ユグドラシズの呪いを受け続けなければならない。そうすることで、ユグドラシズは己に並ぶものが生まれないようにした」
そう言って、結晶像に近付いたネアロは、その頬を慈しむように撫でる。
何故、ネアロがその事実を知っているのか。
ヴァングリフはかつて聞いたことがある。
「我々、『ベルゼブブ』は……責任を持って世界の巨悪、ユグドラシズ――我々の先祖を、倒さねばならぬのだ」
それが、ネアロがイルスフィアの統一を押し進めていた理由。
まだ命が保たれている内に、ユグドラシズをその手で討ち取らねばならないと。
腹部に結晶化を発症したネアロの、壮大な悲願だったのである。
「大丈夫です、お義父さん……例えヌエツトの協力は得られなくとも、俺はあなたの意思を継ぎます」
「はっはっは。なんかもう、私が死ぬ前提で話を進めちゃってない? なーに、私の魔力なんてネプティアと比べれば米粒のようなもの。まだまだすぐには倒れんさ」
真面目くさった顔のヴァングリフの緊張を解きほぐすように、おどけた調子でネアロは言う。
「それに、私達にはまだ秘密兵器がある……そう、異世界勇者という秘密兵器がね」
そう言って、ネアロは暗室の入り口を振り返って見る。
そこには、壁にもたれ掛かって小さな笑みを浮かべる、白髪の少年の姿があった。




