83.願いとおっさん―5
――翌日。
ヴァングリフより渡された毛皮の服を身に纏い、グルゥはコクアの城門の外にいた。
手首に嵌められていた“封具”も外し、万全の力が出せる態勢でいる。
目的地はヌエツトだ。
デルガドスより“巨人の霊薬”を受け取り、両国の諍いに終止符を打つという重要な役目を達成するため、グルゥは決意を新たにしていた。
「まさかまたこうして、おっさんと旅に出ることが出来るとはな」
毛皮の下からひょっこりと顔を出したのは、一匹のイモムシである。
デルガドスに無理を言い、アガスフィアに敵討ちに出た日のことを、グルゥは昨日のように思い出す。
「ああ……またナビゲートをよろしく頼むよ、ミルププ」
「ケッ、言われなくても、ハナからそのつもりだっつーのッ!」
あれだけ可憐でしおらしい少女が、何故イモムシの姿になるとこうなってしまうのか。
グルゥはそのことに苦笑しつつも、懐かしいやり取りに少しホッとするのを感じていた。
今回、キットとミノンとは、ある目的のために別行動を取ることにしている。
つまり、ヌエツトへの旅路はミルププとの二人きり、かつて旅を始めた時とまったく同じ状況というわけだ。
「いいか、あくまで俺様は、おっさんの監視をするって役割だ。なんつーか、その、ジジイとの交渉に役立てるとは思うなよッ!」
「分かってるさ。そもそも、イモムシの姿じゃ何の説得力もないだろう……。あくまで私が、デルガドス王と話をつける。ミルププは、一緒に居てくれるだけでいい」
「そ、そうか。分かってるなら、話ははえーや」
グルゥの言葉に安心したのか、ミルププは服の下に潜り込んでいく。
ミルププの抱く願いは、グルゥなりに理解しているつもりだった。
荒野の果てに見えるのは、火山を背に聳え立つ城壁の町。
吹き荒ぶ風に逆らうように、グルゥは大きな一歩を踏み出した。




