83.願いとおっさん―1
「各国の意思の統一を謳いながらも、お前達はデルガドス王だけは殺そうとしていた。違うか!?」
テーブル越しに凄むグルゥを見て、ネアロはおろか、キットやミノンも押し黙る。
ただ一人、ヴァングリフだけはどこか嬉しそうな表情で、腕を組んだまま佇んでいたが。
「やれやれ……だ。それに、何か文句があるのかい?」
やがて、開き直ったようにネアロが口を開く。
忙しなく、人差し指と親指で口髭の先を立てながら。
「なんだと……っ!?」
「だってしょうがないだろう。彼のやり方は間違っている。独善的で、他の国に対しても威圧的だ。言ってみれば、彼こそがこのイルスフィアの癌。イルスフィアが一つになるためには、どうしても排除しなければならない障害なんだよ」
ついに心情を吐露し始めたネアロに、グルゥは怒りで拳を震わせた。
「それに、言ってみれば彼は、私にとっては娘の仇であり孫を誘拐した憎むべき相手だよ。敵討ちをしたいという感情を、君に――いや、君が咎めるのは、おかしいんじゃないかな?」
「そ、それは……っ!」
痛いところを突かれ、今度はグルゥが押し黙る番だった。
確かに、アキトへの復讐を果たした自分に、他人のことを言える筋合いはないだろうと、ネアロの言葉は受け入れるしかなかった。
「だが、それでも……。……あれでも、デルガドス王は私にとっては育ての親のような御人なのだ。その命を奪うことに加担しろというのは……私は、受け入れることは出来ない」
グルゥが伏し目がちにそう言った時だ。
バン、と大きな音がして、玉座の間に一人の少女が入ってくる。
眉毛を吊り上げ、その可憐な姿には似合わない怒った表情をした、ミルププだった。




