9.ビンタとおっさん―1
頭が鉛のように重く動かない。
随分と長い間、眠っていたような気がする。
「ここ……は……?」
瞼を開けると目に入ってきたのは、茅葺で出来た涼しげな天井だった。
ここは天国? あるいは地獄か?
それにしては妙に生活感のある死後の世界だと、グルゥはぼんやりと考えていた。
天井に向かって伸ばす腕。
確かに動く、まだ体が存在している。
気になって下の方を見ていると、病人のような白い服を着させられてはいたものの、足もしっかりとついていた。
「生き延びた……のか? 私は……」
体中に包帯が巻かれていた。
それだけ、酷い怪我をしていたのだろう。
だが、体を動かしても痛みを感じることはなく、気になったグルゥは包帯を解いてみることにした。
「……なんてことだ」
一切の無傷だ――胸に残った、古傷以外は。
腹に空いたはずの穴も既に塞がっており、自分の体のことながら、いったいどうなっているのかとグルゥは不思議に思っていた。
すると、その時だ。
突然、部屋の入り口の方から鋭い視線を感じ、グルゥはハッと顔をあげる。
開いたドアの向こうから、紺色の髪の少女が、摩り下ろされたりんごを乗せた皿を持ってきたところだった。
目と目が合う二人。
少女の視線は、徐々に下の方へと下がっていき――
「ホギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」




