82.遺恨とおっさん―7
「やはりな……それが目的だったか」
デルガドスはミルププにもう一度服を着せると、ため息混じりに言った。
「答えは“否”だ。他の血統に渡す霊薬など、あるわけがなかろう」
その一言が、引き金だった。
「うっ!?」
風圧で視界が霞む。
あまりの勢いにグルゥは後ずさったが、確かに、目の前で魔獣化したヴァングリフが、デルガドスに飛び掛かっていた。
「クソオヤジめッ!! 力ずくでも、奪い取ってやるッ!!」
だが、デルガドスもその予兆は感じ取っていたのだろう。
今にも泣き出しそうなミルププを玉座の上に置くと、自らも魔獣化し、ヴァングリフの特攻を真正面から受け止めたのだ。
「うおおおッ!?」
両者が激突した衝撃で、グルゥは尻餅をついていた。
巨大な二頭の魔牛。
白い毛並みと銀色の毛並みの猛牛が、眼前で取っ組み合っていた。
「結局は力に頼るか、小童めがッ!! 儂が造り出したものだ……儂自身の手で、粛清してやるッ!!」
「俺はお前の道具じゃないッ!! 俺は、自分の手で、未来を決めてみせるッ!!」
ぶつかり合う二人の主張。
戦いは熾烈を極めるかと思われたが――その力の差は、歴然だった。
「ぐああッ!!」
デルガドスの巨体に吹き飛ばされたヴァングリフは、床の上を転がる。
そこにすかさず、デルガドスは馬乗りになった。




