82.遺恨とおっさん―6
「な……王子……?」
思いがけない展開に、グルゥは何と声を掛けていいのか分からなくなる。
「今から言う話は、グルゥおじさん、あなたにも聞いていて欲しいんだ。……俺の身に、もしものことがあった場合のためにな」
そう言ったヴァングリフの目は、いつになく真剣な色をしていた。
グルゥはゴクリと唾を飲み込むと、ヴァングリフから放たれる言葉を待つ。
「俺の娘、ミルププには……生まれつきの奇病があるんだ。“結晶病”。コクアの国で、一万人に一人程度の確率で発症するという……体の一部から、徐々に全身が結晶化していく病気だ」
その話を聞いて、デルガドスとグルゥは同時にミルププを見やった。
確かに、ミルププの右足の小指の先が、うっすらと透明な色になっている。
「あれが……病気だと言うんですか?」
「ああ。そしてそれは、後天的なものではなく……母親からの遺伝だということが分かったんだ」
「……何だって? それじゃあ王子、あなたの奥方は――」
「そうだ。ネプティアも……ミルププを生んだ彼女も、結晶病を発症し、既に右の足首が動かなくなっている。このままでは、いずれ結晶化が心臓に達する日も来るだろう」
そう言って、ヴァングリフはついに、頭を床に擦り付ける程の土下座をした。
「だから頼む、オヤジ……っ! ミルププとネプティアに、巨人の霊薬を分けてはくれないか……!! 俺は、それを頼みに来たんだ……っ!!」
(巨人の霊薬?)
その単語は、長くヌエツトに仕えてきたグルゥも始めて聞いたものだが、噂には聞いたことがある。
ヌエツトには、超越種である巨人より与えられた、どんな怪我も即刻治し万病を退治するという、秘薬があるということを。




