82.遺恨とおっさん―5
デルガドスは、裸の赤ん坊――ミルププを抱えたまま玉座から立ち上がる。
「フン。お前には失望したぞ。ゆくゆくはこの国を任せるのはお前だろうと思っていたが……こんな恥を作って来たのだからな」
「恥? ……他人を愛することの何が、恥だってんだよッ!! そいつは……俺とネプティアの家族なんだ。邪魔をするっていうなら、いくらオヤジでも許さねぇ……ッ!!」
ネプティア、というのがミルププの母のことなのだろう。
デルガドスは、ヴァングリフの訴えを退けるように固くミルププを抱き締める。
「駄目だ。この赤ん坊は、今後城内で育てることにする。それが、お前の恥をこれ以上広めないための方法なのだ。お前のことを思って言っているのだよ」
「恥だ恥だって、勝手なこと言ってんじゃねェッ!! オヤジは血統に拘りすぎだ。血統の混血児なんて、今日日珍しい話でもないっ」
「そうだな。だからこそ今――ヌエツトの血統は、誇り高きものである必要があるのだ。穢れた血をヌエツトに持ち込むことは、あってはならない」
デルガドスの言葉を受け、ヴァングリフはグッと拳を握り締めた。
「駄目です、王子っ」
グルゥは慌てて二人の間に割って入る。
ここで、二人が殴り合いを始めては、親子の関係は二度と修復出来ないものになる。
そのことが、はっきりと分かっていたから。
「……大丈夫だ、グルゥおじさん。俺は別に、オヤジと喧嘩しに来たわけじゃねぇ」
そう言って、ヴァングリフは一歩進み出た。
震えた声から、『憤怒』を抑えて気持ちを保っている様子が、ありありと伝わってくる。
(そういえば、赤ん坊の命が危ないと言っていた――)
そのことをグルゥが思い出したのと同時に、ヴァングリフは床に膝をついていた。




