82.遺恨とおっさん―2
ヌエツトの城下町の、城門に近いところで。
傘を差したグルゥは、予想通りの雨に降られながら、買い物袋を提げ歩いていた。
「…………ん? なんだ」
城門の前を通りかかったところで、兵士と、何やら一人の若者が揉めているのに気がつく。
慌ててグルゥが駆け寄ると、そこには思いもしなかった光景が広がっていた。
「だから……頼みますっ!! 早くしないと、この子が――」
赤ん坊を抱えた一人の『サタン』の青年。
少し見ないうちに大きく、逞しくなったが、何度もいじめられていたグルゥには分かる。
「王子……!! どうして、ここにっ!?」
「あ、グルゥさん。今、王子を名乗る若者が、王に会わせろとしつこく言ってきて。すぐに確認を取るから待っていてくれと、言っているのですが」
顔見知りの門番は、困り顔でグルゥに助けを求めてくる。
確かに、ヴァングリフは三年もの間ヌエツトを留守にしていたのだ。
いくら面影があると言っても、分かったとすぐに城内に通すわけにはいかないだろう。
「グルゥおじさんっ! 頼むよ、俺だ、ヴァングリフだ……っ!」
「だ、大丈夫だ。私は分かっている。雨に打たれっぱなしじゃ、寒いだろう」
グルゥは慌てて駆け寄ると、持っていた傘をヴァングリフに差し出した。
そこで、ヴァングリフの腕に抱えられていた、布に包まれた赤ん坊と目が合った。
「お前、まさか――」
「早くしないと、この子が……この子の命が、危ないんだっ」
この時のグルゥは、まったく気が付いていなかった。
この赤ん坊がもたらす遺恨が、ヌエツトの将来を大きく変えようとしていることに――




