81.交渉とおっさん―8
「テンザンで我々の刺客が暴走してしまったことは、本当に申し訳なく思っているよ。彼らは、元々は“ネクロマンス”した兵士……屍肉に虫を埋め込んで、コントロールをしていたはずなのだが、不慮の出来事でその通信が出来なくなってしまったんだ」
「何故、過去に大量殺人を犯した者をわざわざ兵士として迎え入れたのだ」
「使えるものは何でも使う主義だからね。確かに彼らの行為は人道的に許されたものではないが、“死人道”なんてものは聞いたことがないだろう? 生身の兵を使うよりよほどクリーンでコストパフォーマンスが良いし、何より、ある種の卓越した戦闘技術は、兵としては非常に私達に貢献してくれたんだ」
「だが、結果として管理に失敗しているじゃないか」
「返す言葉も無いね。まあ、だからこそ彼に、直接アガスフィアに行ってもらったんだ」
ネアロはそう言って、視線でヴァングリフのことを指し示した。
グルゥとしては全く納得のいかない答えだったが、もう一つ、ちゃんと確認しておかなければならないことがある。
「では……デルガドスを襲ったことについては、どんな正当な理由があるんだ。お前達の振るった暴力は、決して許されるものではない」
「彼は……しょうがないよね。イルスフィアの統一に際して、最大の障壁となるのはデルガドスくんだったから。会談の場を襲ったのは、ユグドラシズが行動を起こそうとしているの察知して、時間が無かった故の強硬手段だったんだけど、もちろん各国の王に手を出すつもりはなかったよ。ただ、どうしても彼からは、かなりの抵抗を受けてしまって、ね……」
伏し目がちに答えたネアロに、グルゥはグッと拳を握り締める。
そして、バンとテーブルを強く叩くと、怒りを込めた視線でネアロを見据えた。
「黙れ……っ!! お前達の中には、ヌエツトに対する、“復讐”の気持ちがあったはずだ――」
両国の過去の遺恨を、グルゥは知っていた。




