81.交渉とおっさん―2
すぐさま事情を問いただそうとするキットだったが、
「そこまでじゃ」
その一声で、周囲の鬼達がざわついた。
群集を掻き分けやって来たのは、アマツ公国の鬼姫、ルキである。
「ほう? 姫様自ら出迎えてくれるとは、随分と豪華な待遇じゃねーか」
「無論じゃな。我がテンザンを散々破壊してくれおって……そう易々と帰れると思うなよ?」
ルキは閉じた扇の先で、ヴァングリフを指し示した。
その瞬間、周囲の鬼達が一斉に臨戦態勢に入る。
膨れ上がった殺気に、キットの尻尾が思いがけず、くるんと丸まった。
「ほう。これが噂に聞いていたアマツの鬼兵団か。なるほど、確かに良い殺気をしている」
「その殺気が、今からお主をズタズタに斬り裂くぞ。四肢から五臓六腑に至るまで……無事に残る部位など無いと思えッ!!」
ルキから放たれた、ただならぬ殺気。
それに呼応するように、鬼達が一斉に襲いかかろうとしたが、
「破ァッ!!」
ヴァングリフの銀色の髪が逆立って、腕や脚の筋肉量が倍近くにまで膨れ上がる。
その全身から立ち上る覇気が、訓練された鬼達の足をすくませた。
「あの力って、親父と同じ――」
「だから、前に出ようとするなって! ……間違いない、魔獣化の力だ。それも、グルゥさんより高度に扱いこなしているように見える」
ヴァングリフの変貌は一瞬で収まり、人型を維持していた。
己の力を誇示し、兵達を怯ませるための魔獣化だったのだろう。
だが、それで効果は十分だった。




