81.交渉とおっさん―1
「よくも親父をッ!!」
それは、グルゥがヴァングリフに倒された直後の出来事だった。
一瞬でヴァングリフの背後まで距離を詰めたキットは、電撃を帯びた拳を繰り出した。
とっさに右腕で受けたヴァングリフは、思わぬダメージに顔をしかめる。
「いってぇな……コノヤロウッ!!」
が、強靭な肉体を持つヴァングリフにとって、キットの電撃は右腕に痺れをもたらした程度だった。
すかさず左手でキットの右腕を捕まえたヴァングリフは、旗でも振るようにその体を易々と振り回す。
「やべ――」
その体を、地面に叩きつけようとしたヴァングリフだが、
「ん? お前」
何かに気が付いた様子のヴァングリフは、放物線を描くようにキットをぽーんと放り投げた。
ミノンは慌ててその下に行き、キットの体を受け止める。
「む、無茶するなよバカっ!」
「バカでもいいよ……親父を傷つけるヤツを、オレは絶対許さねー!!」
キットからの激しい敵意に、ヴァングリフは困ったようにポリポリと頭を掻いた。
「やれやれだ。ただのガキなら、さっさとのしちまったところだが」
「ただのガキじゃなくて残念だったな! オレはこれでも、強いんだぞ――」
「ミルププの友達じゃあ、俺も手出しは出来ねーよ」
「ミル……へ!? い、今、なんて!?」
ヴァングリフの放った一言は、キットの攻めの手を止めるには十分な効果があった。




