80.捕虜とおっさん―8
ヴァングリフに羽織るための毛布だけ渡されて、グルゥはそのまま歩かされた。
見たところ、ここは何処かの城内のようである。
広い廊下に、忙しなく動いている小さな魔人達。
みな一様にグルゥを見てぎょっとしは表情を浮かべたが、すぐに興味深そうな目をして、じっと様子を窺ってくるのだった。
(小柄な体格に、好奇心旺盛な性格。それにあの黒くて細い尻尾は、間違いなく『ベルゼブブ』の血統だ。ということは、ここは――)
だんだんと、グルゥにも予想がついてきた。
テンザンで意識を失ってから、いったい、何処に連れて来られたのか。
(だが、それならばキットは? ミノンはどうなった?)
意識がブラックアウトする直前、グルゥの視界には駆けつけようとするキットの姿が映っていた。
当然、ヴァングリフがその存在に気付いていないということはないはずだ。
(先程も、ヴァングリフはキットとミノンを捕まえているようなことを示唆していた。であれば、やはりヴァングリフが私に見せたいものというのは――)
グルゥの脳裏に、ついさっき見た悪夢の光景が蘇る。
もしも、キットの身に危険が迫っているとするのなら。
手首に付けられた枷をどうにか外せないか、指先でグルゥは弄ってみたが、堅牢な作りで並大抵のことでは壊せそうにない。
「さあ、王が待っている。入れよ」
ヴァングリフが顎で差したのは、大きな両開きの扉だ。
グルゥは最悪の事態も覚悟しながら、ゆっくりと玉座の間の扉を押した。
そして、そこに待ち受けていたのは――
「な、何をしてるんだ!? お前らぁぁぁ!?」
口髭を蓄えた『ベルゼブブ』の王と楽しそうにケーキをつついている、キットとミノンの姿だった。




