80.捕虜とおっさん―7
グルゥは、もう一度ヴァングリフの目を見据えた。
だが、それは怒りを込めた視線ではない。
自分の思いを伝えるため、真摯な感情を込めた、対話のための視線だった。
「痛みや恐怖で、私がお前に屈服することはない。もしも、本当に私に要求を受け入れさせたいのであれば……お前の用件を話すんだ。話は、それからだろう」
「……へぇ、本当に変わったんだな、グルゥおじさん。昔は俺に散々泣かされてたくせに」
うるさい、とぶすっとした表情でグルゥはむくれた。
「だけど……もし、あんたの大切にしているガキたちを既に人質にしていると言ったらどうする? そして、言うことを聞かなければ痛めつけると言ったら」
ヴァングリフの一言一言を聞くたびに、心の奥がぞわぞわするのを感じた。
こんな状況でなければ、すぐにでも魔獣化し周囲を壊滅させていただろう。
だが今は、その力は完全に封じられてしまっている。
「もしも、お前がそこまで堕ちてしまったのなら……私は、絶対にお前に協力などしないだろう。自分が命を落としてしまってもしょうがない。そもそも『憤怒』の感情が、まともな思考など、させないだろうから」
「…………ハハ。その通りだな。グルゥおじさんがキレるとヤバいってのは、あの日、あの時に、俺も十二分に理解したつもりだよ」
そう言うと、ヴァングリフか拳を振り上げ再びグルゥに近付いた。
与えられる痛みに備え、グルゥはぎゅっと目をつぶって身構えたが――
パチン、パチンと音がして、両腕の枷から鎖が外された。
「…………なに?」
「王が、グルゥおじさんと話をしたがっている。別に俺だって、グルゥおじさんを痛めつけるためにここまで運んできたわけじゃないからな。ただし、“封具”は外さない……身の振り方には、十分注意しろということだ」
突然、自由にされて、グルゥは逆に戸惑ってしまった。
来い、とヴァングリフは手招きをして、グルゥを牢の外に出していく。




