80.捕虜とおっさん―5
「――あ……あああ…………」
自分の叫びの煩さで目を覚ました。
手足に枷を付けられ、鎖を通して壁に括りつけられた半裸のグルゥ。
石造りの牢は、『サタン』にとって重要な体温を奪うのに最適な場所だった。
(夢……? 夢、だったのか。それならば、良かった…………というわけには、いかないだろうな、この状況)
「ようやく気がついたか。グルゥおじさん」
眼前には、毛皮の服を着込んだヴァングリフが立っている。
テンザンでの敗北の後、知らないところまで運ばれて来たらしい。
「どういう、つもりだ……っ!!」
キッと、怒りを込めた目でヴァングリフを睨みつける。
本来ならば、『憤怒』によって体温が上がり活力が湧いてくるはずだが、脱力感に襲われているグルゥは、気丈な振る舞いをするだけで精一杯だった。
「なーに。別に俺は、グルゥおじさんと喧嘩がしたいわけじゃないんだぜ? ただ一つだけ、俺の頼みを聞いて欲しい」
どうせロクな頼みじゃないだろうな、とグルゥは思った。
黙り込んでいると、ヴァングリフはやれやれと肩をすくめてグルゥに近付いてくる。
「ぐっ……!!」
「服従しろ。グルゥおじさん。俺は、あんたの力が欲しいんだ」
ヴァングリフはグルゥの折れた角の根元を掴むと、そのまま頭を壁に押し付けた。
『サタン』にとって、己の力を誇示するマウントの行動。
その屈辱にグルゥは暴れようとするが、どういうわけか、鎖すらも引き千切ることが出来ない。
(何故、だ。何故、力が出ない……!?)




