80.捕虜とおっさん―3
だからヴァングリフは、勝手な行動は許されず、一日の大半を城内で過ごす生活をしている。
それは年頃の『サタン』の男子にとって、耐え難い退屈な日々ではあると思うが。
(それだけこの子が、王からも特別気に入られているという証拠だ)
態度には出さないものの、デルガドスがヴァングリフのことを溺愛しているのは、周囲の者達からすれば明らかなことだった。
他の王子は悪さをすればすぐに鉄拳制裁を食らうのに、ヴァングリフは今まで一度も殴られたことがない。
そして、ヴァングリフ自身も力は強く、戦いのセンスも秀でたものがある。
ヌエツトの次期の王はヴァングリフになるだろうと、誰もが思っていた。
「ちょっとくらい手合わせしてくれてもいいだろ、グルゥおじさんのケチっ!」
「王子の言う手合わせは、私を一方的にボコボコにすることじゃないですか」
「それはグルゥおじさんが弱すぎるのが悪いんだって。ほんと、城の中でも最弱クラスに弱いからな。ちょっとは鍛えた方がいいぞ?」
「……私は、戦いの訓練なんて受けてきませんでしたから。それに、武だけじゃない、文の力で国を守ることだって出来るんです。王子も、少しは勉強をして学を深めるのがいでででででででででででで」
「うるせぇ!! 生意気なことばっか言ってると、二度とヌエツト城で働けないようにしてやんぞ!!」
グルゥの左右の角を鷲掴みしたヴァングリフは、そのまま頭を床に押し付ける。
グルゥはそれを押し返すことが出来ない――七つも年が離れているのに、グルゥは既に力負けしていたのだ。
(王子のこの力の強さ……やはり将来は、この子が国を治めることになるだろう)
「はい、十秒経過! これでグルゥおじさんは今日一日俺に服従な!」
「か、勝手なルールを作ることはやめてください――うわわっ!?」
ヴァングリフに腕を引っ張られたグルゥは、強引に部屋から連れ出されることになる。
廊下ですれ違った侍女が笑っていた。
もはやヌエツト城ではお馴染みになっていた、ヴァングリフに振り回されるグルゥの構図だった。




