79.鬼とおっさん・怒―8
その巨体からは想像もできないような速さで、ヴァングリフは一瞬でグルゥの懐まで間合いを詰めていた。
「な――」
鳩尾に叩き込まれる、鋭く研ぎ澄まされた拳の一撃。
普通の打撃ではビクともしない魔獣化したグルゥの巨体が、その一瞬は宙に浮かんでいた。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
次の瞬間、大きく後方に吹き飛んだグルゥは、背中から民家の壁を打ち破る。
そのまま民家を貫通し、吹き飛び続けたグルゥは、大木の根元に叩きつけられて動きを止めた。
「う…………ぐっ…………」
たった一撃。
その一撃だけで、グルゥの魔獣化は解け、身動きが取れないほどのダメージを受けていた。
腹を押さえ、痙攣するグルゥ。
血反吐を吐き、朦朧とする意識の中なんとか立ち上がろうとするが、既に手足の感覚はなくなっている。
全身の骨が粉々になり、全ての臓物が潰れたような衝撃だった。
突如として始まった魔獣同士の戦いに、周囲の鬼達は騒然としたが、ヴァングリフの圧倒的な迫力の前に近付くことすら出来ない。
ずしり、ずしりと、地面に大きな足跡を穿ちながら、ヴァングリフはゆっくりとグルゥに近付いていった。
「だから、あんたは甘いんだよ。グルゥおじさん」
頭上で聞こえた冷徹な声に、グルゥは地に倒れ伏したまま、なんとか顔を持ち上げる。




