79.鬼とおっさん・怒―7
「な――」
とっさに避けるグルゥだが、銀色の『サタン』が大地に拳を突き立てた瞬間、まるで爆風のような衝撃が周囲を襲った。
「うわあっ!?」
シュテンとクリクの手当てをしていた鬼達も、その風圧に吹き飛ばされる。
グルゥは両足で踏みとどまったが、その破格の力は、自らの膂力と遜色ないことが推察される。
「何だ、お前は……っ!? 何者なんだっ!!」
「何者? ……随分と酷いことを言ってくれるじゃないか。なぁ?」
ゆっくりと身を起こした銀色の『サタン』は、岩のような筋肉が隆起した肩をぐるぐると回す。
まるで準備運動をするような動きだが、その迫力にグルゥは圧倒された。
(三メートル近くある……どう見ても、私より大きいぞ!? こんな巨体を持つ者が、ヌエツトに居ただろうか)
真っ先に思いついたのは、“白鯨”の異名を持つデルガドス。
だが、魔獣化した王は三メートル以上の巨体を誇っていたはずだし、傷つき倒れた今、アガスフィアに来るはずがない。
「久しぶりの再会なんだ。もう少し嬉しそうな顔をしてくれよ……グルゥ“おじさん”」
だが、銀色の『サタン』のその言葉を聞いた時、グルゥの中では全ての謎が解けていった。
デルガドスに似た体毛に、それに準ずるほどの巨躯。
そして、自分のことを親しげに“おじさん”と呼ぶ男は――記憶の中では、ただ一人しか合致しなかったからだ。
「まさか、王子……なのか!?」
グルゥの問いかけに、銀色の『サタン』は会釈するように片手を挙げた。
一瞬、流れる、和やかな空気。
だがそれはもちろん――ヴァングリフの計算の内だった。




