79.鬼とおっさん・怒―6
――魔獣化を遂げたグルゥは困惑していた。
ハヌ・トゥを倒した後だが、どうにも魔獣化が収まりそうにない。
ひとしきり暴れたはずだが、それだけ、ハヌ・トゥに対する『憤怒』の感情が強かったのだろう。
(あの親子に救われたな……シュテンとクリクの絆が無ければ、怒りに我を忘れ、危うくサグレスの二の舞を演じるところだった)
傷だらけの親子の周囲には、既に多くの鬼達が集まって、手当てを施していた。
時折、何だアイツは、というような畏怖の視線が突き刺さるのが気になるが――まあ弁解なら後で出来るだろうと、グルゥはぼんやりと考えていた。
(キットやミノン、ブランは無事だろうか。今回に限って言えば、先にリンメイに倒されていたおかげで、返って戦いに巻き込まずに済んだが)
心身共に疲弊していたグルゥの中に、キットに会いたいという欲求が強く生まれる。
いつも一緒に居るはずなのに、ちょっと姿を見ないだけで、こんなにも恋しくなるとは。
(救われているのは、どっちだかな)
過酷な戦いではあったが、今はまだ途中でしかない。
愛娘であるノニムや、覚醒を果たし兵器として扱われているサリエラを救うために、ヴラディオ、そしてユグドラシズを倒さなければ、戦いは終わらないのだ。
昇り始めた朝日を前にして、決意を改めるグルゥ。
その、白い光の中の――点のようなシルエットが徐々に巨大化していることに、グルゥは段々と気付き始めていた。
「なんだ……あれ、は…………っ!?」
そのシルエットには見覚えがあった。
というか、今の自分と、丸きり同じ姿をしていたのだ。
全身が銀色の毛で覆われた、魔獣化した姿の『サタン』。
頭上から降ってきたそれは、筋肉の隆起した拳をグルゥに突き立てた。




