79.鬼とおっさん・怒―5
――東の空が、静かに白み始めていた。
長い、実に長い戦いだった。
戦いの爪痕はテンザンに大きく残り、数え切れない犠牲が生まれた。
それでも、生き残れば、命だけでも残れば勝ったようなものだと。
生首になったハヌ・トゥは、地面を転がりながら思っていた。
「な、何なのじゃあの化け物は……とんでもない暴れ牛に手を出してしまったわい」
体は塵一つ残さず蒸発してしまった。
だが、それが逆に、生き残るためには功を奏していた。
脳味噌だけ潰されなければ――仮初めの命を失うことはない。
何故ならば、彼らは死体を元に復活させられたゾンビで、肉体はただのパーツでしかなかったのだ。
「このままじゃ、終わらせんぞい……絶対に、復讐してやる……ッ!! 皆殺し、次こそは皆殺しじゃッ!! 屈辱と苦痛を、味あわせてやるッ!!」
そんな弾む生首を、爪先でポンと受け止めた、一つの大きな足があった。
「ふぁっ!?」
「やれやれ、突然『イルスフィア』から反応が無くなって、何をしていたのかと思えば……こんなおイタをしていたとはな」
その男の姿を見て、ハヌ・トゥは震え上がる。
「ま、待てッ!! 違うんじゃ、これは、そのッ、任務を遂行するためで――」
「任務? ……お前らに与えた任務は、異世界勇者を捕獲することだ。間違っても、無関係な村を巻き込んで大量虐殺をすることじゃねぇ」
男の冷たい目に、ハヌ・トゥはそれ以上言葉を発することが出来なかった。
有無を言わせぬ迫力が、その目の奥にあったからだ。
グチャッ、と小気味良い音を立ててハヌ・トゥの頭蓋が潰される。
ゼリーのように飛び散った“脳味噌”と呼ばれていた器官からは、一匹のイモムシが、もぞもぞと這い出してくる。
「お前ら、“伝達部”には罪はねぇからな」
男は労うようにイモムシに声を掛けると、優しくその体を摘みあげたのだった。




