79.鬼とおっさん・怒―3
「何モタモタしてるんだよ、マリモ先輩っ!!」
耳元で喚くカエデに、マリモは顔をしかめた。
確実にルルリリを仕留めるため、その一瞬をモノにするために、狙いを定めているというのに。
「カエデは、さ。私のことが、幸せに見えてたんでしょう?」
「…………は? こんな時に、何を言い始めたんだ!?」
信じられない、と口元に手を当てて憤るカエデ。
だが、これは必要なこと――その一瞬のために必要なのだと、マリモは確信していた。
「私自身、そういう風に見えるように振る舞ってきたのかもしれない。由緒正しい家柄で、品行方正、完璧な“お嬢様”に見えるように……そう生きてきた」
「だからッ! そんなことどうでもいいんだってッ!! 早く、その矢を放つんだッ!」
「だけど、本当は……そういうことに縛られないみんなのことが、“羨ましかった”。私だってバカなことをして、羽目を外したりしてみたかった。本当は、知ってたんだ。つまらない生き方しか出来ない私が、一番、価値の無い人間なんだって」
初めてだった。
ずっと感じていたこと、心の中のドロドロとした部分を、洗いざらいぶちまける様に喋るのは。
だけど、その度に心が軽くなっていくのを感じた。
初めて向き合った――自分の中に押し込めていた、『嫉妬』の感情。
これ以上、抑えきれないくらいに育っていた『嫉妬』の思いが、マリモに力を与えた。
(そう、だよね。だから私を、選んでくれたんだよね)
血が滲んだ赤い目を、マリモはぎゅっと瞑る。
そして、もう一度目を開けた時、そこには血の赤さとは違う“真紅”の輝きが灯っていた。
「貫け……ッ!! 『魔弾の射手』ッ!!」




