79.鬼とおっさん・怒―1
「勝手なこと言ってるんじゃねぇよ!!」
突然、頬にピシャリと鋭い痛みを感じて、閉じかけたマリモの意識は覚醒した。
満身創痍の状態なのに何てことをするんだと、マリモは少しムッとする。
「今、お前に死なれたら……私は、お前に貸しを作ったままになるだろっ!!」
「だからって、叩かなくても……おかげで、ちょっと目が覚めちゃったよ」
軽口のようなマリモの言葉に、カエデは少しだけ笑った。
まだ少し――ほんの少しだけ体が動くことを確認し、マリモはゆっくりとカエデの上から退いていく。
『お前は選ばれた』
走馬灯のように記憶が蘇った時、マリモはかつて聞いたその言葉を思い出していた。
それは、異世界転移が起こる直前、『レヴィアタン』から告げられた言葉。
(今なら……分かるかもしれない。どうして、私が『レヴィアタン』選ばれたのか。こんな力を与えられたのか)
「もう一発だけ……いつものやつ、撃てるか? 私に、考えがあるんだ」
カエデはそう言って、真剣な眼差しでマリモの顔を覗き込む。
頷いたマリモに、カエデは小さな声で耳打ちした。
「え? そんなこと――」
「やってみなきゃ、分かんないじゃん。きっとそれが、あの化け物を倒せる唯一の方法だから」
ルルリリはサーチライトで忙しなく周囲を照らし、見失ったマリモとカエデを探しているようだった。
爆炎で姿を眩ませられたのは、不幸中の幸いだろう。
分かった、とマリモが頷こうとした瞬間だった。
そのサーチライトが、二人の居場所へと真っ直ぐ近付いてきていた。




