+++ある晴れた夏の日―END+++
それは不思議な光景だった。
ゲンロクと別れ、ホテルへと戻ってきたマリモ。
唯一の年長者である先生に事の成り行きを説明するため、必死に走ってきた。
だが――
「どうし……て……?」
ようやく辿り着いた先生の部屋。
そこはもぬけの殻で――いや、その部屋だけではない。
ホテル全体に、人の気配は一切無くなっていたのだ。
「なに、これ」
テーブルの上には先生の携帯電話が置かれていた。
携帯電話を置きっぱなしにして、何処かへ行ってしまうだろうか?
そんな疑問を抱きながら画面を覗き込んだマリモは、言い知れぬ気味の悪さを覚える。
「どうして、私の写真が……?」
携帯電話の画面に映し出されていたのは、巫女姿のマリモだった。
神事の時の自分の写真なんて、わざわざ神社にまで来なければ撮れないはずだ。
混乱するマリモだが、開けっ放しなったベランダから、地鳴りのような音が聞こえてきた。
はっとして顔を上げると、水平線の彼方、海の向こうに蠢く何かが見える。
「…………え?」
月明かりに照らされた海と対照的な、漆黒の闇のようなシルエット。
巨大な蛇のような“何か”が、腸のようにのた打ち回って、巨大な水の壁を巻き起こしていた。
津波だ――死ぬんだと、マリモは思った。
『お前は選ばれた』
巨大な蛇のような“何か”は、遥か遠くから真っ赤な眼光を輝かせ、マリモの全身を射抜いた。
蛇に睨まれた蛙のように――血のように赤い眼光に魅入られたマリモは、思考まで真紅に染められ、そのまま発狂したのだった。




