78.鬼とおっさん・焔―6
どばっ、とシュテンの口から血の塊が吐き出された。
「俺ぁの命に免じて……息子、だけでも……っ!!」
血濡れの刀を手にしたまま、シュテンは立ち続けた。
決して膝を着くことはない――例え命を落とそうとも、最後まで戦い続けようとするシュテンの姿勢に、グルゥは感動すら覚える。
そしてその行動は、“黒き炎”を正しい方向に向かわせる力となった。
「そんなこと、関係あるかッ!! 行け、父の前で首を落とす姿を、見せてやるのじゃッ!!」
非情なるハヌ・トゥの命令。
虫唾が走ると、グルゥは強い憤りを覚える。
だが、ハヌ・トゥの指示にも関わらず、クリクの手はそれ以上動かなかった。
「父ちゃん……どうして、オイラなんかのために……っ」
自らの首を斬り落とそうとする腕を、辛うじて戻った正気で、必死に食い止めるクリク。
その目に浮かんだ大粒の涙が、とめどなく溢れて頬を伝っている。
「な――なんじゃとッ!?」
驚くハヌ・トゥだが、グルゥは知っていた。
強い絆が、薬の影響を打ち破り正気を取り戻すことがあるということを。
「お前は、“絆”を軽視しすぎた……ッ!!」
「だ、だからどうしたと言うんじゃッ!! 貴様等をぶち殺すことなど、ワシの実力を持ってすれば赤子の手を捻るよりも容易いことッ!!」
甲羅を手にするハヌ・トゥ。
暗器使いの最凶の殺人者が持つ、最強の盾。
そこに、グルゥの最大の『憤怒』が叩き込まれる。
「私は……怒っているんだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
魔獣化した吐き出したのは、超高密度の炎の熱光線だった。




