78.鬼とおっさん・焔―5
ハヌ・トゥの目は――そのイカレっぷりは本気だった。
何の躊躇をすることもなく、ハヌ・トゥはクリクを殺すのだろう。
カアッとグルゥの全身が熱くなる。
沸騰しそうなほどに頭が熱くなり、思考することもままならない。
(駄目、だ……このままじゃ、本当に――)
動悸が激しくなり、膝をついた。
この距離では、クリクにまで手を届かせることも出来ない。
二度と味わいたくないと思った悲劇を、みすみす目の前で、起こさせてしまうのか。
(あの……男、は…………殺さ、ナ、クテハ……ッ!!)
ドス黒い炎が、グルゥの胸を焦がしていた。
抑えきれない『憤怒』が身を包む。
「む……? 妙な動きはやめるんじゃッ!! さもなくば、このガキは今すぐ処刑じゃッ!!」
その動きを感知したハヌ・トゥが、一足先に手を振った。
揃えた指先で首を斬るような仕草――それに応じるように、クリクは一気に短刀を引き切ろうとする。
「ま、待てッ!! 待ってくれぇ!!」
もう逡巡している暇はないと、ついにシュテンは大太刀を振った。
飛び散る鮮血。
夥しい量の血が足元を覆う。
それを見て、『憤怒』に我を忘れかけたグルゥは正気を取り戻す。
「な……っ、お前、何を、して……っ!?」
シュテンが振るった刀は、自らの腹部を貫通していたのだ。




