78.鬼とおっさん・焔―4
「だ、誰がそんなことっ」
「良いのか? ならば、お主の息子が目の前で自害するだけじゃ」
シュテンの紅潮した顔が、赤を通り越してドス黒く染まっていた。
シュテンはハヌ・トゥの指示を拒否したが、その目はこれ以上ないくらいに憔悴しきっている。
「シュテン、お前――」
「安心せぃ、グルゥさん。俺ぁお前さんを裏切ることはしねぇ。いざとなったら、親子もろとも、この手でケリをつけるだけだ」
「ば、ばか、何を早まったことを言ってるんだ」
シュテンの眼前で、クリクが殺される――そんな残酷な結末だけは、グルゥは避けたかった。
目の前で最愛の家族を失う、その悲しみをグルゥは分かっている。
だからこそ、そんな結末を受け入れることは出来ないと。
「それに、グルゥさんも言ってただろう? 俺ぁの息子は人質なんだ。アイツが、手中の人質をそんな簡単に手放すわけがねぇ」
「人質? ……なーにをバカなことを、言っておるんじゃ?」
まるで指揮者のように、ハヌ・トゥが挙げた右腕を軽やかに振るう。
その度に、クリクの首にゆっくりと短刀がめり込んでいき、流れる血の量が増していった。
「や、やめ――」
シュテンの嘆願の声は、カッと目を見開いたハヌ・トゥの怒号にかき消された。
「貴様等のような青二才など、一瞬で捻り潰せるに決まっておるだろうがッ!! これは余興じゃッ!! あまり舐め腐った戯言を漏らすなよ、雑魚ゥめがッ!!」




