78.鬼とおっさん・焔―2
「な、なんで……俺ぁの息子が、あんなヤツの思い通りに……」
愕然とした表情でうな垂れるシュテン。
その疑問はグルゥも同じように抱いていたが、クリクの様子には既視感があった。
「さては、ミノンの意思を奪ったのもお前の仕業だったのか?」
「はえ? ミノンなんてヤツのことは知らんが、恐らくはウルヴァーサに渡したコレの力じゃろうなぁ」
そう言って、ハヌ・トゥが甲羅の中から取り出したのは一本のガラス瓶だった。
その中には、薄緑色の得体の知れない液体が入っている。
「コイツを飲むとなぁ、頭の中がすーっとしてきて、だんだんと何も考えられなくなるんじゃよ。繰り返し飲ませれば、あっという間に何でも命令を聞く奴隷の出来上がりってわけじゃ。自分の体を切り刻んで襲撃を受けたフリをしとけって言っても、痛がる素振りもなくやってみせたぞよ?」
挑発するように、クリクのことをせせら笑いながらハヌ・トゥが言った。
瞬間、シュテンの殺気が一瞬にして膨れ上がり、遠目で見ても分かるほどに額に青筋が浮かぶ。
怒りで顔を真っ赤に染めたその姿は、まさに“赤鬼”だった。
「……で、人質を取ってどうするつもりだ。お前にも、要求があってこんなことをしてるんだろ」
ハヌ・トゥがテンザンを襲った目的について、グルゥは未だに理解出来ずにいた。
が、ハヌ・トゥはしばし考え込んだ後、コテンと首を横に傾ける。
「はて、なんじゃったかのぅ。思い出せんわい」
「ボケてるのか!?」
敵ながら、思い切り突っ込まざるを得ないグルゥ。
それを受けて、ハヌ・トゥは思い出したようにポンと手を打った。




