78.鬼とおっさん・焔―1
目の前の光景が信じられなかったが、それは自分よりも、シュテンの方だろうとグルゥは思う。
ハヌ・トゥが連れ出した鬼の少年。
全身に血の染みた包帯を巻いた、手当ての跡が痛々しいクリクだった。
「な、なんで……なんで俺ぁの息子が、アイツの手先に……!?」
「手先? ……ふーむ、さてはお主、まだ勘違いをしておるな?」
パチンと指を鳴らすハヌ・トゥ。
するとそれを受けて、クリクは手にしていた短刀で己の右腕を切りつける。
「っ……!?」
驚愕のあまり、グルゥは声が出なかった。
自らを傷つけてもなおクリクは、ケタケタと不気味な笑みを浮かべているからだ。
「貴様、やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
怒りに我を忘れたシュテンは、大太刀“鬼殺”を抜き放ちハヌ・トゥに向かっていく。
が、グルゥはそれを後ろから羽交い絞めにしてなんとか押し止めた。
「なんでだァッ!? なんで邪魔をするんだァ、グルゥさんッ!! アイツは、アイツは俺ぁの息子を――」
「冷静になれ!! ……アイツが言いたいのは、クリクは手先なんかじゃない。“人質”なんだ、ということだ」
グルゥの言葉に、ハヌ・トゥはしたり顔で頷く。
クリクは手にした短刀を、自らの首筋に押し当てていた。
その目には意思はなく――完全にハヌ・トゥの操り人形の状態である。




