+++ある晴れた夏の日―10+++
肝試しのスタート地点まで戻った後、マリモとゲンロクが目にしたのは信じられない光景だった。
「な、なに……これ?」
マリモは青ざめて口元に手を当てる。
カエデが居たはずのそこには、代わりに一本のナイフと、点々と続く血の跡が残っていたのだ。
ようやく事態の深刻さに気が付いてきたマリモは、ぎゅっとゲンロクの腕を掴んだ。
「分からない。けど、このまま放っておくわけにはいかない」
ゲンロクはすぐに血痕が続く方向へ向かおうとする。
が、そこでふと足を止めた。
「マリモ、君は来ない方が良い」
「ど、どうしてっ」
手を振り払われて、慌ててゲンロクに追い縋るマリモ。
ゲンロクはマリモの両肩に手を乗せると、黙って首を左右に振った。
「この先、どんな危険が待ち受けているか分からない。それにマリモには、別の役割を果たして欲しい」
「別の役割って、何を――」
「この状況を、大人に知らせることだよ。マリモは山を降りて、先生にこのことを伝えるんだ」
ゲンロクの口調は穏やかだが、有無を言わせない力強さがそこにはあった。
マリモは勢いに押され、黙って首を縦に振ることしか出来ない。
「分かった……でも、気をつけてね」
「ああ。カエデのことは、必ず助けてみせるさ」
今はただ、ゲンロクを信じることしか出来ない。
名残惜しさを感じつつも、ゲンロクの背中を見送ったマリモは、一人山を降りていくのだった。




