+++ある晴れた夏の日―9+++
山の中に響き渡るカエデの絶叫。
それは、肝試しの順路を進んでいたマリモとゲンロクの耳にも、しっかりと聞こえていた。
「な、何!? 今の悲鳴はっ」
「カエデの声だろ。何かあったのかもしれない、戻ろうっ」
せっかく楽しんでいた、二人だけの時間。
憧れのゲンロクと密な時間が終わることに、マリモは名残惜しさを感じた。
「ま、待って」
踵を返したゲンロクの手首を、マリモはぎゅっと握り締める。
「なんだよ」
振り返ったゲンロクの真っ直ぐな目に射抜かれて、マリモは何も言えなくなってしまった。
きっと、虫か何かに驚いただけだって。
他の誰かが、すぐにカエデのところに行くよ。
頭の中をよぎるのは、ゲンロクを独り占めにするための意地悪な言葉――だが、その言葉はついにマリモの口から出ることはなかった。
「ううん……私も、行くから。置いてかないでよね」
マリモの言葉を聞いたゲンロクは、うん、と大きく頷くと、マリモを手を握って走り出した。
思いがけないゲンロクの力強い行動に、マリモは体温が上昇して耳の先まで赤くなっていくのを感じる。
(代わってもらって……良かった。ありがとう、カエデ)
ゲンロクを前にし盲目になっているマリモは、まだ気が付いていなかったのだ。
既にその時、取り返しのつかない出来事が、自分達の身に降りかかっていることに。




