76.殺人鬼とおっさん―9
「おやおや、こんな老人相手に二人でかかってくる気かえ? 最近の若者はひどい事をするのぉ」
わざとらしさ満載の口調で、ハヌ・トゥはグルゥとシュテンに対峙する。
「あ、あいつを倒すってのか? グルゥさん」
「あいつこそが、今回の騒ぎを起こした張本人なんだっ!! リンメイすらも……あの男の手によって殺された。気をつけろ、あいつは何をしてくるか分からない――」
「ま、待て待て待てぇぃッ!? リンメイが!? まさか、負けたっちゅうのかッ!?」
ハヌ・トゥの危険さに気が付いていないシュテンの様子に、グルゥは苛立って歯噛みする。
すると、ハヌ・トゥは顎鬚を撫でながら仰々しい様子で話し出した。
「まあ、さすがのワシも二対一は辛いものがあるからのぅ。どうじゃ、ここは一つ増援を呼んでみるっていうのは」
「増援……? あの、『アスタロス』の娘か」
「ふぉっふぉっふぉ。答えはノーじゃ。こんなときのために、ワシは既に“仲間”を作っておったのじゃよ」
そう言って、ハヌ・トゥはパンパンと両手を叩いてみせる。
その音を聞きつけたのか、大木の陰から、ゆらりと現れる人影が一つ。
「なん……だ……って…………?」
驚愕の声を漏らしたのは――グルゥではなく、シュテンだった。
全身、血に塗れながら、ケタケタと狂ったように笑う鬼の少年。
その姿は紛れもなく、シュテンの息子であるクリクだったのである。




