76.殺人鬼とおっさん―8
「グルゥさん、グルゥさぁんッ!!」
爆弾でも落ちたんじゃないかと思うほどの爆音が、耳元で炸裂している。
ぐわんぐわんと頭が飛んでいきそうなほどにシェイクされており、その激しさでグルゥは目を覚ました。
「ぐ……う……? こ、ここは?」
「やあっと目を覚ましたか! 腹ん中いっぱいになるくらい水を飲み込んで、死にかけの状態で流れ着いてきたんでぇ! 俺ぁが見つけなかったら、そのままドザエモンになってたどぉ!!」
川の下流まで流されたグルゥは、シュテンによって助けられたのだった。
蜘蛛型ゴーレムに襲われ傷ついたのか、シュテンは体のあちこちから血を流している。
どうやらハヌ・トゥとの戦いから、さほど時間は経っていないようだ。
「そ、そうだ。イルスウォードの連中を……早くなんとかしないと……」
「う、動いちゃいけねぇだ! グルゥさん、大怪我してるからよ、少し安静にしねぇと」
シュテンはグルゥの身を案じて、起き上がるのを制止しようとしたが――その時だった。
「ふぉっふぉっふぉ。こーんなところまで流れていたとはのぅ。手間をかけさせおって」
耳に覚えのある声に、グルゥは身を固くして警戒する。
月明かりを背にして歩いてきたのは、甲羅を背負ったハヌ・トゥだ。
あれから、グルゥを追って来たのだろう。
「な、なんだあの爺さんは?」
「油断するなよ。あんな見た目だが、恐らくあの男は――ここにいる、誰よりも強い」
好々爺にしか見えない笑みを浮かべて、ハヌ・トゥははて、と首を傾げてみせる。
グルゥだけが知っていた、笑みの裏の狂気、甲羅に隠された無数の暗器。
この男は、この場で倒さなければいけないと――はっきりと、そう覚悟していた。




