76.殺人鬼とおっさん―6
ハヌ・トゥは甲羅の舟の上で胡坐を掻きながら、悠々とグルゥを眺めている。
「ふぉっふぉっふぉ。まるで猛牛の血抜きじゃな。こうなったら、もはや貴様に為す術はないじゃろう」
徐々に低下していく体温。
熱の源となる血も既に多くの量が流れ出し、グルゥの意識は朦朧としてきていた。
「さてさて、後はどうやって殺してやるかじゃのぅ。斬殺刺殺撲殺絞殺射殺圧殺轢殺毒殺焼殺、昔からありとあらゆる殺し方で人の命を奪ってきた。正直なところ、ワシもいい加減殺しには飽きていたのじゃあ」
顎鬚を撫でながら、楽しげに話すハヌ・トゥ。
一見すれば好々爺の佇まいだが、その目の奥に宿る狂気に、グルゥは恐怖を隠し切れない。
(駄目だ、この圧倒的に不利な状況……勝算が見つからない)
今まで幾度の危機を乗り越える力となっていた魔獣化でさえ、ハヌ・トゥの前には封じられている。
薄れ行く意識の中、グルゥは一つ、ハヌ・トゥに問いかけることにした。
「記念すべき六百六十六人目の殺人は私だと、貴様は言ったな」
「その通りじゃ。お前さんも、縁起の良い番号で殺されて嬉しいじゃろ」
「いや……六百六十六人目は、先程お前が殺した、鬼の剣士じゃないのか? 拘っている割には、適当なことを言っていると思って……このままでは、死んでも死にきれない」
グルゥの指摘に、ハヌ・トゥはムキになって甲羅の舟の上で立ち上がった。
そして背中を向け、自らの傷を見せ付けるようにグルゥに晒す。




