76.殺人鬼とおっさん―5
だが、その殺人鬼は処刑されたはずだった。
多くのものの命を奪った罰として、背中に六百六十五の傷を刻まれ、絶命したという。
「いや、だが……ウルヴァーサのことを考えれば――」
「記念すべき六百六十六人目の殺人は、お前さんの命で叶えることにしようかのぅ」
落ち窪んだハヌ・トゥの目の奥に輝く、漆黒の光。
いかなる意思や希望すらも抱かぬその瞳は、まさしく“死者”のもののように思えた。
「喰らえぃッ!!」
ハヌ・トゥが乗る甲羅の底部から、無数のトゲが矢のように発射される。
水中で思うように身動きが出来ないグルゥは、必死で両腕を振るったものの、一発が右肩に、そしてもう一発が脇腹に深く命中する。
「うぐうぅ!?」
夥しい量の血が流れ出し、体の力が徐々に奪われていく。
骨が太く筋肉のついた体を浮かせ続けるのは難しく、その体は徐々に沈み始める。
(ど、どうにか……どうにかして時間を稼げれば……)
せめて下流にまで辿り着ければ、なんとかなるかもしれない。
淡い期待を抱くグルゥだが、それすらも、ハヌ・トゥは見透かしていた。
「それじゃあ、そろそろ……狩りの時間と行くかのぅ」
ハヌ・トゥが手にしたのは、発射機構を取り付けた銛だった。
見るからに危険な雰囲気が漂う得物に、グルゥは慌てて逃げ出そうとするが、
「無駄じゃ」
正確無比な一撃が、グルゥの左脚を貫いた。
痛みにもがき狂うグルゥ。
ハヌ・トゥは銛に括り付けてあった縄を投げると、岸辺の柵に巻き付かせた。




