76.殺人鬼とおっさん―4
(最悪だ)
予期せぬ水中戦。
それも、相手は老人といえど『レヴィアタン』の血統である。
地の利は圧倒的にハヌ・トゥにあり、グルゥは流れに体を持っていかれつつも、仕掛けてくる攻撃に身構えた。
「さてさて、いったいどうやって殺してやろうかのぅ」
だがハヌ・トゥはすぐに仕掛けてくることもせず、マイペースに甲羅の中を漁っている。
「魚のように銛で突き殺してやろうか。それとも、毒を撒いて鬼もろとも殺すのも楽しいかもしれないのぅ」
ウキウキとした様子で話すハヌ・トゥを見て、グルゥはゾッと背中が寒くなるのを感じた。
この老人は、純粋に“殺す”ことを楽しんでいる。
その興奮が、ありありと伝わってきたからだ。
「……まさ、か」
甲羅の中にしまい込んでいたらしい、無数の武器の数々。
また、ハヌ・トゥの小さな背中に刻まれている無数の古傷を見て、グルゥは過去に聞いたとある話を思い出した。
それは『レヴィアタン』の伝説の殺人鬼の話。
暗殺者の家系に生まれた天才的なセンスを持つ男が、己の才能に溺れ、一族全てを暗殺し、さらには無関係な人々まで自らの暗殺の実験台にしたという話だった。
一説に寄れば、その男が殺した魔人の数は、優に百を超える。
断定は出来ないが、行方不明になったままの魔人を含めれば、六百人近くがその殺人鬼の犠牲になったという話だった。




