76.殺人鬼とおっさん―3
「く……!! ウガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
居ても立っても居られずに、グルゥはその場で魔獣化した。
蜘蛛型ゴーレムを表皮の熱で焼き焦がすと、そのまま標的をルルリリに絞る。
「ガァッ!!」
渾身の力を込めた拳を、ルルリリの頭上から叩きつける。
だが、その時予想外のことが起きた。
「あれあれ……? アタシのことは容赦なく殴ろうとするんだ。ひどいなぁ、他の子供には優しいくせにぃ」
余裕綽々の表情で、ルルリリはため息混じりに喋る。
グルゥの拳は、ルルリリの右手によって受け止められていたのである。
「グガ……っ!?」
「『サタン』の力もこの程度ね。アタシの力の前に、ひれ伏しなさいッ!!」
ルルリリは魔獣化したグルゥの右手、さらにその小指を掴むと、力任せにグルゥの体をぶん投げた。
あり得ない――と、『憤怒』に支配された頭の中で、グルゥはかすかに驚愕を覚える。
グルゥの巨体はそのまま氾濫した川の中に沈む。
流れる水の冷たさに、魔獣化は一瞬にして解け、グルゥは慌てて水の流れに抗うようにもがいた。
(ま、まずい。このままでは、戦う以前に溺れ死んでしまう)
必死に川岸に向けて手足をバタつかせるグルゥだったが――
「ふぉっふぉっふぉ。これは良い眺めじゃのぅ」
甲羅を舟の代わりにし、流れを乗りこなすハヌ・トゥが、グルゥと岸の間に割って入る。




