76.殺人鬼とおっさん―1
グルゥの存在に気が付いたハヌ・トゥとルルリリは、同時に顔を見合わせる。
ルルリリはすぐに尻餅をつくと、大きな声を出して叫んだ。
「い、いやあぁぁぁんっ! こんなところで人が死んでるー! 私、こわーい!」
「いや、今さら可愛い子ぶっても無駄じゃろ……バッチリ、話してるところを見られるぞい」
当然グルゥは、二人がテンザンに入り込んだ“異変”なのだと理解していた。
そもそも、鬼しかいないはずの里に、魔人である『アスタロス』と『レヴィアタン』がいることがおかしいのだ。
だが、そんな当たり前のことよりも、あのリンメイが無残な姿となって殺されているという、あり得ない光景がグルゥの思考を麻痺させていた。
「やれやれ、こんなところで会ってしまうとは……これも因果というヤツかのぅ」
ハヌ・トゥの体は、物ぐさな動きで自身の首を拾い上げると、まるでネジでも絞めるかのようにキュッキュと己の胴体と繋ぎ合わせた。
ぐじゅぐじゅと接合面の肉が泡立って、首の境目は綺麗に繋がって無くなる。
「分かっておるな? ルルリリ。あやつこそが、話に聞いていたウルヴァーサを殺した――」
「そっちこそ、耄碌して忘れてるんじゃないかと思ってたよ。……ちょーどいいジャン、異世界勇者の捕縛だけじゃなくて、ついでにお手柄をあげてくってのもさァ!!」
「ウルヴァーサ……っ!?」
久々に聞いた名前に驚いて、グルゥの思考はいっぺんに現実に引き戻された。
「まさか貴様らは、“イルスウォード”の――」
「だったら何!? 文句あるッ!? 私の発明に――メロメロになっちゃいなさいッ!!」
ルルリリが背負っていたバックパックから黒い球体を放り投げると、それは蜘蛛型のゴーレムとなりグルゥに襲い掛かった。




