75.賊・強襲とおっさん―8
リンメイの首に、細い赤い筋がついた。
闇に紛れ、張り巡らされた黒い鋼線が、リンメイの首に巻きついていた。
「何っ……!? 確かに、首を斬り落としたはず――」
「良いことを教えてやろう。人は、首を落されると死ぬのじゃ」
むくりと立ち上がった、ハヌ・トゥの首無しの骸。
その右手が鋼線を引くと、リンメイの首が千切れ飛んだ。
「がッ――」
噴水のように噴き上がる鮮血。
潰れた虫のような、無様な断末魔の悲鳴をあげて、リンメイの体はその場に崩れ落ちた。
「これで、御そろいというわけじゃなぁ」
完全に事切れたリンメイを見て、ハヌ・トゥの首は満足げに何度も頷いていた。
一方で、ハヌ・トゥの体は転がってきたリンメイの首を、苛立ち紛れに何度も踏みつける。
「おやおや、いくらソイツが美形だからって、そこまで目の敵にせんでも良いだろうに」
自身の体に向かって話しかける、ハヌ・トゥの首。
まるで常識が狂ってしまったような、異質な光景がそこにはあった。
「おい、クソジジイ。何、こんなところで油を売ってんだよ」
するとそこに、闇に紛れて一人の『アスタロス』の少女がやって来る。
「おう、ルルリリか。すまんが、ちょっとワシの首をくっつけてくれんかの?」
「嫌だよ、面倒くさい。こっちはしっかり仕事を済ませてきたんだ。あとは、混乱に紛れて異世界勇者を捕まえるだけだ」
「ったく、可愛げのないクソガキじゃの。ワシには辛辣な態度を取りおって」
そうやって、ハヌ・トゥとルルリリが言い争っていた時だ。
「なん、だ……!? これは……っ!!」
通りかかったのは、グルゥだった。
リンメイの無残な姿を見て、目を疑うほどの衝撃を受けていた。




