75.賊・強襲とおっさん―5
一方で、グルゥはシュテンと共に、決壊しかけた川の堤防に土嚢を積む作業をしていた。
「ぐぬぬぬ、積んでも積んでも水かさが増すばかりだぁ! こりゃあ、大元から栓をしねぇとどうしようもねぇだ!!」
シュテンは顔を真っ赤にして、怒鳴り散らすように叫んでいた。
テンザンの鬼達が総手で対応しても凌ぎきれない勢いに、グルゥも限界を感じ始めている。
「鬼達の陣頭指揮はお前にしか出来ない。私が、川上の方を見に行こう」
「おう、原因を見に行ってくれるか? 多分、もう何人かは向かってると思うんだが」
シュテンとの会話もそこそこに、グルゥは作業を切り上げ川上へ向かおうとした。
だが、その時だ。
「うん?」
川の勢いに押し出されたように、手のひら大の黒い塊が、作業をしているシュテンの足元に転がってきた。
始めは、誰も何も思っていなかったが、同じような黒い塊が不規則にいくつも流れ着いてくる。
シュテンは構わずに作業を続けていたが、直後、鋭い痛みが足を襲った。
「ぬあっ!?」
ぬかるんだ足元は、夜の暗さも相まってよく見えない。
だが、カシャカシャと不気味な機械音が、いつの間にか辺り一帯に響き渡っていた。
いったい、何が起きているのか。
シュテンの疑問は、流れ着いた黒い塊が震えだしたのを見つけて解決した。
「な、なんじゃあ……こりゃあ……ッ!?」
黒い塊から突然生え出した、六本の脚。
さらにその脚の先端は、鎌のように鋭く尖っていたのだ。




