75.賊・強襲とおっさん―4
ほんの少しだけ、心が軽くなった気がした。
「ごめんなさい……っ! この恩は、いつか必ずっ!」
律儀に頭を下げたマリモは、怪我をした太ももを押さえながら走り去っていく。
その“気”が離れていったのを確認してから、リンメイは改めてハヌ・トゥに向き直った。
「で、まだ戦う気なのか? 貴様は」
既にハヌ・トゥの右腕は千切れ飛んで無くなっている。
どう考えても不利な状況だが、ハヌ・トゥはニヤァと不敵な笑みを浮かべていた。
「一つ、良いことを教えてやるのじゃ」
「なに?」
「ワシみたいなブサイクなジジイはな、お前さんみたいな美男子に良いところを持っていかれると、この上なくムカつくのじゃ」
私怨丸出しのハヌ・トゥの言葉に対し、リンメイはやれやれと大きく首を振った。
「生憎、私には自分の姿形を知る術がなくてな。何を嫉まれているのか、私にはさっぱり分からないが……貴様の“気”が酷く歪で、醜い形をしているのだけは、はっきりと分かるぞ」
「調子に乗りおって、小童めが。亀の甲より年の功……もとい、亀の甲も年の功も持っているワシが、お前さんなどケチョンケチョンにやっつけてやるのじゃ」
右腕を失った程度で退く気は、ハヌ・トゥにはさらさら無いようである。
「その心意気や良し」
“鬼灯”を構えたリンメイは、ハヌ・トゥに対して改めて向き直る。
「いざ尋常に――勝負」
鋭い剣閃が、ハヌ・トゥの首筋を狙って真一文字に輝いた。




