75.賊・強襲とおっさん―2
「無駄……? 私のせいで、何の意味もなくこの村は沈むの……?」
突きつけられた現実に、マリモは愕然として立ち尽くす。
どうして、こんな事態になったのか。
グルゥからは見捨てられ、カエデには裏切られ。
そして、たった一人追い詰められ、自分のせいでテンザンに大きな被害が出ようとしている。
「嘘……っ! こんなの、嘘だよ……っ!!」
戦意を喪失したマリモは、両手で頭を抱え込むとその場にしゃがみ込んだ。
もう何も見たくない、何も考えたくない。
ついに思考すら放棄したマリモを見て、ハヌ・トゥは満足げに何度も頷く。
「おうおう、可哀想にのぅ、お嬢さん。だーいじょうぶじゃ、安心せい。ワシが、たっぷり慰めてやるからのぅ」
下卑た笑みを浮かべながら、ハヌ・トゥはゆっくりと近付いてくる。
(このまま、私が逃げ続けて、村に被害が出るくらいなら――)
いっそ、捕まってしまった方が良いのかもしれない。
絶望がマリモの心を支配する。
消耗しきった心身では、他人を犠牲にしてまで立ち向かおうと思えるほどの力が湧いてこなかった。
(ああ、ごめんね、アキト)
一人になって気が付いた、たった一人でも戦い続けることの難しさ。
もしもアキトだったら、村一つを犠牲にしてでも、自分だけ生き残ろうとするだろうと、マリモは考える。
(でも、私は――そこまで、利己的になることは出来ない)
ハヌ・トゥの腕が水際のマリモに迫る。
そして次の瞬間――伸ばされたハヌ・トゥの右腕は、真っ二つに千切れ飛んでいた。




