+++ある晴れた夏の日―7+++
始めは、ほんの小さな出来心だった。
肝試しのペアを決めるために回された、カラー付きの割りばし。
黄色を引いたマリモは、その後の花火の準備を確認するため、ワゴン車へと向かっていたのだ。
「つーかさ、なんで俺が二回行かなきゃいけないわけよ」
「しょうがないだろ。男の方が一人少ないんだから、誰かが二回行かなきゃ」
同じことを考えていたのだろう。
既にワゴン車の前にはアキトとゲンロクが居て、マリモは慌てて近くの植え込みに身を隠した。
(……って、何で隠れたんだろ、私)
黄色の割りばしは合計三本用意されていて、それを引いた男が、順路を二度回る決まりになっていたのだ。
つまり、マリモのペアの相手はアキト。
心のどこかでゲンロクとのペアを希望していたマリモは、気付かれないように小さくため息をつく。
「俺と交換してくれない? ゲンロク先輩。きっと先輩が一番人気だから、その方が女子も喜ぶって」
「駄目だ駄目だ。こういうのは、ズルがあると面白くなくなってしまう。ガチンコでやるから面白いんじゃないか」
「先輩、何色? ……ふーん、赤ね。赤はいったい、誰が引いたのかな」
聞こえてしまった、アキトの言葉。
マリモはハッとして、女子部屋で割りばしを引き合った時のことを思い出す。
――赤を引いたのは、カエデだったはずだ。
「カエデなら……頼めば、変えてくれるかも……?」
それは他愛もない、恋心にも満たないほんの小さな出来心。
だがその出来心は、まるで火がつき始めた線香花火のように、ゆっくりと、確実に弾け始めていた。




