74.強襲とおっさん―9
「な、なんだぁ!? いってぇ、何が起こってるんだ!!」
慌てて外に飛び出したシュテンに続いて、グルゥも外に出ていく。
外には既に、音に気が付いた鬼達が数多く出て来ていた。
閑静なテンザンの夜が、一変して騒々しくなる。
そこに、川上の方から走ってくる一人の若い鬼が現れた。
「と、棟梁大変ですっ!! 貯水湖の堰が壊れて、川が氾濫し始めてるんだとかっ!」
「な、何ィッ!?」
「村の男達は総出で、川縁に土嚢を積む作業を始めましたっ! 俺も、すぐに作業に戻りますっ!!」
テンザンに襲いかかった非常事態を告げて、若い鬼は川上へと戻っていった。
川の氾濫を食い止めるため、シュテンは早速指揮を執って、周囲の男達を引き連れていく。
「私も手伝おう。力なら人一倍……いや、鬼一倍あるはずだ」
「お、おう。かたじけねぇな、グルゥさん。何から何まで、本当にすまねぇ」
走り去っていくグルゥとシュテンの後ろ姿を見ながら、リンメイは一人、ルキに耳打ちをしていた。
「ルキ姫。彼の“気”は、やはり――」
「そう……か。来るべき大災厄、その元凶が――」
報告を終えてから、リンメイは足早に民家を飛び出していく。
「どうするつもりじゃ、リンメイ」
「姫の指示はきちんとこなした。とりあえずは、目の前の異変を食い止めるため、私の考えで動かせてもらうさ」
振り向き様、感情など無いように思えたリンメイの表情が、ルキに対してはほんの少しだけ微笑んでいた。
「妙な“気”を感じる。正常な“気”の中の異物感……これが、今回の異変の正体だろう」
確信を持って頷いたリンメイの背中を、ルキは頼もしげに眺めるのだった。




