8.決着とおっさん―3
いったい何事かと――振り返ったグルゥの動きが硬直する。
そこには、息を切らせて倉庫に寄りかかる、厚い唇の少女が一人。
そしてその腕の中には、両手両足を縄で縛られ、口には猿轡を噛まされたキットがいた。
「お……ナーイスタイミング、マリモ先輩」
それまで錯乱しているように見えたアキトだが、マリモと呼んだ少女の姿を見た瞬間に、いつもの飄々とした態度に戻っていた。
「な、何故、キットがそこに――」
「おら、その汚ェ手を離せよおっさん。仲間を殺されたくないんだろ?」
ハッとして、グルゥはアキトの目を見やる。
先程まで、今にも泣き出しそうな目をしていたアキトだが、その悲壮感は既に影も形もなくなっていた。
「だ、駄目だ。私は、お前を――」
「あー、やっぱ駄目だわ、マリモ先輩! その人質の首を、さっさと掻っ捌いてくれ!!」
アキトの指示を受け、マリモは強張った表情で、腰から抜いたダガーナイフをキットの首に当てた。
キットは「んー!!」と大きな声を出しているが、猿轡のため何を言っているのかは分からない。
「ぐ……っ!!」
仕方なく、アキトの胸倉から手を離すグルゥ。
石畳の上に着地したアキトは、グルゥの背中をポンポンと叩いた。
「ドンマイ、おっさん。もう少しで俺を殺せたんだけどな。ま、でもまだまだ、おっさんの娘の居場所とか、俺には交渉材料があったわけだし。いくらでも時間を引き延ばせたけどな」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアキトに、グルゥは怒りを通り越して戦慄していた。
追い詰められてからのアキトの切羽詰った表情は、果たして全部嘘だったのだろうか。
全てがそうは見えなかったが……まったく見えてこないアキトの本心に、グルゥは眩暈を覚える。




