74.強襲とおっさん―5
「――超越種、というものを知っておるか」
ルキの話は、その前置きから始まった。
超越種。
エルフやドワーフ、また魔人の七つの血統よりも高位に位置する、この世界でもっとも神に近き種族のことだ。
例えるなら、ドラゴンやクラーケンなど。
ヌエツトの火山にも、千年を生きた巨人の超越種が居ると、グルゥは聞いたことがあった。
「今から七十年近くも前の話じゃ。アマツ全土を襲った、酷い日照りの年があってのぅ。飲み水も無くなるほどに大地は乾き果て、作物は全て枯れ、大飢饉が起きたのじゃ」
ルキが何を話そうとしているのか、グルゥにはさっぱり分からない。
だが、七十年前という言葉を耳にして、どうみても七、八歳の姿のルキに違和感を覚えた。
「ここ、アマツの山の頂上には、“麒麟”と呼ばれる超越種が棲んでおる。妾は飢饉を凌ぐ方策を得るため、麒麟様に会いに行ったのじゃ。そこで妾は、麒麟様との契約を結んだ」
超越種より人智を超えた力を授けられた者の逸話は、グルゥもおとぎ話で聞いたことはあった。
(まさか、そんな伝説的な話を、こうして実際に聞くことがあるとは)
だが、グルゥは覚えていた。
超越種との契約――それを結ぶということは、人智を超えた力だけでなく、それに伴う“呪い”も受けることになるという、おとぎ話の顛末を。




