74.強襲とおっさん―4
「私はこの世界で、どうすればいいのっ……! なんで私だけ残してみんないっちゃったの、アキト、ユズ、ミク……ゲンロク先輩っ……!」
カエデの話では、シノカミも既に死んだと言っていた。
ユズとミクは、心神喪失の状態で失踪したまま、それぞれ一人でこの世界を生きていけるとは思えない。
つまり残りの異世界勇者は、実質的にはマリモとカエデだけということになる。
(いっそ、カエデをこの手で……っ!!)
向こうは自分を殺す気なのだ。
正当防衛として、手にかけても良いのではないか。
そんな考えが首をもたげる度に、水面に映る赤い目の光はどんどん強さを増していった。
――だが、その時である。
「…………っ!?」
突然、川の上流の方で何か大きな音がしたような気がして、マリモはハッと顔をあげた。
水が大量に流れ出したような、轟音が夜の村に響いている。
「なに? いったい、何が――」
「おやおや、こんなところにおったとは。灯台下暗しというやつじゃな」
その声は、確かに一度聞いたことがあった声だった。
人を食ったようなおどけた雰囲気と、感情が枯れたような無機質さが混じった、しわがれた声だ。
「な、なんであなたが、ここに……!?」
驚いて後ずさるマリモは、まだ気が付いていなかった。
自分が背にした川の水かさが、見る見るうちに上昇していることに。
「それは、もちろん……異世界勇者を捕らえるためじゃよ」
迫り来る狂気に、マリモは必死に震えを抑えながら、光の弓矢を番えた。




