74.強襲とおっさん―2
「待たれぃッ!!」
畳を全て引き剥がすような圧倒的な風圧に、グルゥはリンメイもろとも吹き飛ばされる。
襖を全てなぎ倒すように大太刀を振るったのは、シュテンだった。
(しまった)
まさか、ここで加勢が来るとは。
早くリンメイを潰しておけば良かったと、グルゥは心の底から後悔する。
赤ら顔のシュテンは、憤怒の形相を浮かべてグルゥに迫る――ことはなく、苦虫を噛み潰したような顔でグルゥを見ていた。
「な、なんだ……? 何をしに来た」
リンメイから受けたダメージも、まだ精神的に重く残っている。
ふらつく足で立ち上がったグルゥは、壁にもたれかかってシュテンに対峙した。
「本来ならば……俺ぁの息子を痛めつけたお前は、今すぐにでもブッタ斬りたいところだ」
「本来ならば? ……それをしない、理由があるのか?」
「お前を生かせというのが、ルキ姫からの命令だぁ」
「左様」
シュテンの大柄な体の後ろから、ふわりと音も立てずに現れる一人の少女。
キットよりも小さい、まだ八歳前後の幼い少女だった。
いったいそれが何者なのか、グルゥは分からなかったが。
「その“気”は……っ!? な、何ゆえ、こんなところにっ!?」
リンメイの顔色が一変して、恭しく跪く。
あの冷静沈着な男が動揺するとは、いったい何者なのかと、グルゥは怪訝な目で少女を睨み付けた。
「ふふ……そう怖い顔をするでない、妾はお主を助けに来たのじゃぞ?」
が、その言葉遣いと、頭の上で結わえている二つの髪のリングを見た瞬間。
「もしかして、ルキ……なのか? お前がっ!?」
「ルキにゃんと呼べ、と言っただろう」
不遜な言い方と笑みに、グルゥの疑念は確信に変わったのだった。




