74.強襲とおっさん―1
リンメイは未だに目の前の光景が信じられなかった。
何度も何度も“殺気”の刃で斬り裂いたはずのグルゥ。
常人であれば、既に発狂していてもおかしくないのに、それでもグルゥは、例え数センチずつでも、這ってでも、常に前に進んできた。
いったい、何がグルゥをそこまで突き動かしているのか。
その真実は、グルゥに触れられた瞬間に分かった。
「ああ……そういうことか……」
目の見えないリンメイにとって、触覚は非常に敏感な感覚でもある。
グルゥに握られた右の足首が、燃え出しそうな程に熱かった。
「お前も、ルキ姫と同じ――」
「すぐに、キットたちの魂を解放するんだ。そうすれば、この足首を握り潰すことはしない」
「……脅しのつもりか? アマツの武士ともあろう者が、そんな言葉一つで屈服するとでも?」
「ああ……そうだな。お前達が、自らの矜持を重んじる誇り高き民族だということは、私も分かっているさ」
リンメイの言葉は、グルゥの『憤怒』を掻き立てるだけだ。
「ならば私も、お前達に対して本気で向き合うだけだ……!! これ以上、キット達を傷つけるつもりというのなら、塵一つ残さん……ッ!!」
グルゥの胸の奥に灯る“黒き炎”。
リンメイは、何かを悟ったように瞼を閉じ、静かにその時を待った。
「ああ……感じるぞ、お前の“気”を……道理で、いくら倒しても向かってくるわけだ……」
きっとリンメイは、これ以上何を言っても折れるつもりはないだろう。
それだけ強い心を持った男であることは、散々大殺界の中で向き合ったグルゥにはよく分かっていた。
やるしかないと、グルゥが覚悟を決めた、その時だった。




