73.続・異変とおっさん―7
『だが、まあ……こうなった以上、私の勝利は確定したようなものだ』
その声は、グルゥの耳元、背後から聞こえた。
とっさに振り返るグルゥだが、その直後、背中に鋭い痛みを感じる。
「ぐっ……!?」
グルゥはすぐさま身を翻して裏拳を放つが、そこには既にリンメイの姿はなかった。
ただ、闇の中に消えるように、残像だけがチカチカと残っている。
「卑怯だぞっ、正々堂々出て来て戦えっ!!」
苛立ち紛れにグルゥは叫んだが、返って来る言葉はない。
さらに、これだけ『憤怒』の力が増しているというのに、いつの間にか魔獣化が解けていることにグルゥは気が付いた。
(大殺界に引きずり込んだ、とリンメイは言っていた。恐らくここは、ヤツが作り出した精神世界のようなもの違いない)
シュテンからヒントを得ていたこともあり、グルゥはすぐにその考えに至ったが、かといって突破口が見つかるわけでもない。
「ぐあ……っ!!」
今度は右からの斬撃だった。
腕を庇うように身を縮めれば、今度は左の肩口も斬られる。
『正々堂々と言うが、悪いがこれが私の正攻法なのだ。諦めて、自らの死を自覚したまえ』
その声は右斜め前から聞こえてきた。
こうなればヤケだと、グルゥはリンメイが現れるだろう場所を予測し、適当に拳を放つ。
そしてそれは運良く的中し、リンメイの体に拳が突き刺さったが。
「やはり、か」
薄々予想はしていたが、グルゥの拳が命中した途端に、リンメイの影は消えてしまった。
つまり目に見えるリンメイは、実体を持った本体ではない。
全ては、リンメイの放つ“殺気”がグルゥに見せている、イメージの姿なのである。




